SAPで原価を集める入れ物には、原価センタ、内部指図、WBS要素(プロジェクトの作業を階層に分けた単位)の3つがあります。新しい活動の原価をどれで管理するかは、導入でも運用でもよく議論になります。
よくある誤解が、「設備投資ならWBS」「プロジェクトと呼んでいるからWBS」という決め方です。この記事では、3つの違いを整理したうえで、何を基準に選べばよいかをまとめます。
3つの違いを一言で
- 原価センタ:部門など、ずっと続く組織の原価を集める。終わりがない
- 内部指図:展示会や修繕など、始まりと終わりがある単純な活動の原価を集める
- WBS要素:長期にわたり、複数の作業を階層に分けて管理する活動の原価を集める。予算や日程も階層ごとに管理できる
| 観点 | 原価センタ | 内部指図 | WBS要素 |
|---|---|---|---|
| 対象 | 継続する組織(部門) | 始まりと終わりがある活動 | 長期で、複数の作業からなる活動 |
| 構造 | 原価センタの階層は組織の集計用 | 1件ずつ独立。階層は持たない | プロジェクトの下に階層を作る |
| 予算 | 期間ごとの計画で管理 | 指図ごとに予算を持てる | 階層ごとに予算を配分し、上位でまとめて統制できる |
| 日程 | 持たない | 開始日・終了日程度 | 階層ごとの日程。ネットワークで作業の順序も管理できる |
| 原価の行き先 | その部門の費用として残り、配賦で他へ振り替える | 決済で原価センタや資産などへ振り替える(統計指図なら決済しない) | 決済で原価センタや資産などへ振り替える |
| 運用の負荷 | 軽い | 軽い〜中くらい | 重い(マスタ、ステータス、決済の管理が多い) |
| 典型的な例 | 情報システム部の運用費 | 展示会の出展、機械1台の更新 | 新工場の建設、大規模なシステム導入 |
判断は「管理の粒度」と「構造の複雑さ」で決める
迷ったときは、2つの問いを順に考えます。1つ目は、その活動に終わりがあるかです。終わりがなく、部門の日常的な費用であれば原価センタで足ります。終わりがある活動なら、2つ目の問いとして、階層に分けた管理や、複数の作業の日程管理が必要かを考えます。
機械1台の更新は設備投資ですが、作業が1つで階層も要らないので、内部指図で管理できます。
2つ目の問いで見ているのは、管理したい粒度です。「この活動に全部でいくらかかったか」が分かればよいなら、内部指図で十分です。「建屋・設備・ITのそれぞれにいくら使い、それぞれの予算に対してどこまで進んだか」まで見たいなら、階層を持てるWBSが必要になります。
「設備投資だからWBS」ではない
設備投資の原価は、完成するまで建設仮勘定(AuC、建設中の資産を一時的に計上する勘定)に集め、完成したら本来の固定資産へ振り替えます。この流れはWBSでも内部指図でも作れます。投資管理(IM)の投資プロファイルを使うと、内部指図にも建設仮勘定を自動で作り、期末に決済で建設仮勘定へ振り替えられます。
つまり、設備投資であることは、WBSを選ぶ理由になりません。WBSを選ぶ理由になるのは、投資の中身が複数の作業に分かれていて、作業ごとの予算や日程を管理したいときです。機械1台の入れ替えのように、作業が1つで期間も短い投資をWBSで作ると、プロジェクト定義・WBS要素・ステータス・決済ルールの管理だけが増えます。
組み合わせて使う
3つはどれか1つを選ぶだけでなく、組み合わせて使うこともよくあります。
- 統計指図:原価は原価センタに負担させたまま、内部指図にも情報として記録する。部門別の管理を変えずに、活動別の合計も見たいときに使う。決済は要らない
- 内部指図やWBSから原価センタへ決済:一時的に活動の単位で集めた原価を、最後に負担する部門へ振り替える。社内のシステム改修などで使う
- WBSから建設仮勘定、固定資産へ決済:複数の作業からなる設備投資で、作業ごとに原価を見ながら、最後は資産に振り替える
選び間違えたときに起きること
選択を誤ると、あとから直すのは簡単ではありません。すでに原価が計上されたオブジェクトを、別の種類に置き換えることはできないためです。よくあるのは次の2つです。
| 選んだもの | 後から起きること |
|---|---|
| 内部指図で始めたが、実は複数の作業に分かれていた | 作業ごとに内部指図を作って並べることになり、全体の予算や合計はレポートで集計するしかない。階層での予算統制もできない |
| 単純な活動なのにWBSで作った | プロジェクト定義・WBS要素・ステータス・決済ルールの管理が必要になり、件数が増えるほど月末の決済やクローズの手間が増える |
導入の段階で、「どんな活動なら内部指図、どんな活動ならWBS」という基準を、金額・期間・作業の数などで決めて、業務側と合意しておくと、運用が始まってから迷いにくくなります。
この記事に出てきた名前
| 名前 | 種類 | 何のためのもの |
|---|---|---|
| 原価センタ | マスタ(CO) | 部門など、継続する組織ごとに原価を集める単位 |
| 内部指図 | マスタ(CO) | 始まりと終わりがある活動の原価を集める単位。実指図と統計指図がある |
| 統計指図 | 内部指図の種類 | 原価は負担せず、情報として記録するだけの内部指図。決済は要らない |
| WBS要素 | マスタ(PS) | プロジェクトの作業を階層に分けた単位。原価・予算・日程を持つ |
| ネットワーク | マスタ(PS) | プロジェクトの作業の順序や所要期間を管理する |
| 決済 | 処理 | 内部指図やWBS要素に集めた原価を、原価センタや資産などへ振り替える |
| 建設仮勘定(AuC) | 勘定・資産 | 建設中の設備の原価を、完成まで一時的に計上する |
| 投資管理(IM) | SAPの機能 | 設備投資の計画と予算を管理する。投資プロファイルで、内部指図やWBS要素に建設仮勘定を作れる |