SAPの消費税で、ユーザーからよく聞かれるのが「なぜこの税コードになったのか」という質問です。販売管理(SD)から作られる請求伝票では、税コードをユーザーが選んでいないことが多く、画面を見ても決まった理由が分かりません。
この記事では、導入プロジェクトでの経験をもとに、消費税の設定がどうつながっているのか、税コードが想定どおりにならないときにどこから確認するのかをまとめます。あわせて、インボイス制度で気をつける点も整理します。
消費税の設定は、いくつもの段階がつながっている
消費税は、FIの税コード1つで完結しているわけではありません。業務上の税区分を決め、それを税コードに落とし込み、マスタと条件の設定を通じて販売や購買の伝票に税コードが入り、最後にFI伝票で税額が税勘定へ転記されます。
- 業務上の税区分:どの取引を10%・8%・非課税・不課税・免税として扱うか
- 税コードと税率:税区分ごとに税コードを作り、税率と転記先の税勘定を決める(FTXP、税コードを定義する画面)
- マスタ:得意先・仕入先(BP)や品目に、税の扱いを表す区分(税分類)を持たせる
- 条件の設定:SDでは、税分類の組み合わせから税コードを決める条件レコードを登録する
- 販売・購買の伝票:受注や請求、発注や請求書照合に税コードが入る
- FI伝票:税額が計算され、仮受消費税や仮払消費税の勘定に転記される
税額がおかしいとき、FTXPの税率だけを見ても原因が見つからないことがよくあります。税コードは、この流れのどこかで決まっています。どの段階で決まったのかまでさかのぼるのが、原因を早く見つけるこつです。
税コードの設計は、業務の税区分から先に決める
導入プロジェクトで難しいのは、SAPの設定そのものより、どの取引をどの税区分として扱うかを業務側・経理側と整理する部分です。税率が10%か8%かだけではなく、課税・非課税・不課税・免税の区別も必要です。
| 区分 | どんな取引か | 税額 |
|---|---|---|
| 課税(標準税率10%) | 国内での一般的な商品の販売やサービス | かかる |
| 課税(軽減税率8%) | 飲食料品(酒類・外食を除く)、週2回以上発行される新聞の定期購読 | かかる |
| 非課税 | 土地の譲渡、住宅の貸付、利子など、消費税の性格になじまない取引 | かからない |
| 不課税(対象外) | 寄付金、配当金など、そもそも消費税の対象にならない取引 | かからない |
| 免税 | 輸出など。税率0%の課税取引として扱う | かからない |
仕入側では、これに加えて、仕入先が適格請求書発行事業者かどうかの区別が必要です。これはあとのインボイス制度の章で説明します。
SDでは、税コードは条件テクニックで決まる
SDの受注や請求では、税コードを明細ごとに手で入れるのではなく、条件テクニック(条件の組み合わせから値を探す仕組み)で決めます。消費税の条件タイプ(MWSTなど)は、出荷元の国・出荷先の国・得意先税分類・品目税分類の組み合わせで条件レコードを探し、見つかったレコードに登録された税コードを使います。
得意先税分類は得意先ごとに(BPの販売エリアデータで)、品目税分類は品目ごとに(品目マスタの販売データで)登録します。下の図は、A商店がペットボトルのお茶(軽減税率の品目)を買う受注で、税コードが決まるまでの流れです。
1受注の明細
2それぞれのマスタから税分類を読む
3条件レコードから、同じ組み合わせの行を探す
| 得意先税分類 | 品目税分類 | 税コード |
|---|---|---|
| 1 課税 | 1 標準税率 | 売上10% |
| 1 課税 | 2 軽減税率 | 売上8% |
| 1 課税 | 0 非課税 | 非課税売上 |
| 0 免税 | (どれでも) | 免税売上 |
4見つかった税コードが明細に入る
国内取引(出荷元・出荷先とも日本)の例です。税分類の値と税コードの名前は一例で、実際にはプロジェクトごとに決めます。
つまり、ユーザーが税コードを選んでいなくても、得意先と品目のマスタに入っている税分類と、それに対応する条件レコードから、税コードは決まっています。
税コードが想定どおりにならないときの確認順
SDの伝票で税コードが想定と違うときは、次の順に確認すると整理しやすくなります。
- 税コードそのもの:FTXPで、その税コードの税率と税勘定が想定どおりか
- 得意先と品目の税分類:BPの販売エリアデータと品目マスタの販売データに、想定した税分類が入っているか
- 条件レコード:その税分類の組み合わせに対する条件レコード(VK11で登録)があるか、有効期間は合っているか
- 税条件:受注や請求の明細の条件画面で、消費税の条件がどのレコードから決まったかを確かめる
条件レコードが存在しない、または税分類が条件と一致しない場合は、税コードが決まらなかったり、想定と違う税コードになったりします。明細の条件画面には、条件をどう探したかの分析(検索の過程)を表示する機能があり、どの組み合わせで探して、見つかったのか見つからなかったのかが分かります。
インボイス制度:仕入先が適格かどうかで扱いが変わる
2023年10月に始まったインボイス制度(適格請求書等保存方式)では、仕入税額控除を受けるために、原則として適格請求書発行事業者が発行した適格請求書の保存が必要です。適格請求書発行事業者以外(免税事業者など)からの仕入は、経過措置として、仕入税額相当額の一定割合だけを控除できます。
SAPでは、仕入先が適格請求書発行事業者かどうかを識別できるように、BPに登録番号(T+13桁)を持たせます。日本向けの対応は、SAP Note 3067001(日本の消費税改正の概要)や3223860(適格請求書等保存方式への対応)で案内されています。
適格請求書発行事業者以外からの仕入では、控除できない部分を別に扱う必要があるため、控除割合ごとに税コードを用意する方法が考えられます。この控除割合が、令和8年度の税制改正で見直されました。
| 始まり | 終わり | 控除できる割合 |
|---|---|---|
| 2023年10月 | 2026年9月 | 80% |
| 2026年10月 | 2028年9月 | 70% |
| 2028年10月 | 2030年9月 | 50% |
| 2030年10月 | 2031年9月 | 30% |
| 2031年10月 | ― | 控除できない |
端数処理は「請求書1枚・税率ごとに1回」
適格請求書に書く消費税額は、1枚の請求書につき、税率ごとに1回だけ端数処理をします。明細ごとに税額を計算して端数を丸め、それを合計する方法は認められていません。
| 計算のしかた | 計算 | 税額 |
|---|---|---|
| 明細ごとに丸めて合計(認められない) | 10.5円→10円(×3) | 30円 |
| 税率ごとに合計してから1回丸める | 315円×10%=31.5円→31円 | 31円 |
SDの価格設定は、税額を明細ごとに計算するのが基本なので、そのままでは請求書の税額と合わないことがあります。そのため、日本向けには、同じ請求書の中で同じ税率・税区分の明細を集約してから税額を計算し、丸める考え方が用意されています。どの機能で実現するかは、SAPのバージョンや、請求書をどう発行するかによって変わります。
仕入側でも、仕入先の請求書に書かれた税額と、SAPで計算した税額が1円単位でずれることがあります。請求書照合で税額をどう扱うか(請求書の税額に合わせるのか、差額をどう処理するのか)も、設計の段階で決めておく必要があります。
テストで確かめる項目
テストでは、税率だけを見て終わりにしないことが大切です。私は次の項目まで確認するようにしています。
- 税コード:想定した税コードが入っているか
- 課税標準額:税額計算のもとになる金額が正しいか
- 税額:税率どおりに計算されているか
- 税勘定:仮受消費税・仮払消費税など、想定した勘定に転記されているか
- 端数:請求書全体で見たときに、税率ごとの税額が合っているか
- SD・MMからFIへの連携:SDやMMの伝票から作られたFI伝票まで、税コードと税額が引き継がれているか
移行では、マスタの税分類を確かめる
BPや品目マスタを移行するときは、税分類が正しく移行されているかを確認します。税分類が誤っていると、稼働後に作るSDの伝票で、税コードが想定と違う形で決まってしまいます。マスタの件数が多いと、1件ずつ画面で見るのは難しいので、移行後に税分類の値ごとの件数を集計し、想定と合っているかを見ると効率的です。
ユーザーへの説明のしかた
「なぜこの税コードになったのか」と聞かれたときに、「SAPが自動で決めています」と答えても納得してもらえません。判定の流れを、実際の値を示して説明するほうが伝わります。
新人のころの自分に伝えたいこと
新人のころの自分に一言だけ言うなら、「税コードだけを見ずに、どこから決まったかを追う」です。SAPの消費税は、業務上の税区分から税コード、マスタ、条件、SD・MMの伝票、FI伝票までつながっています。税額がおかしいときにFTXPだけを見るのではなく、どのモジュールのどの設定で税コードが決まったのかまでさかのぼって考えると、原因にたどり着きやすくなります。
この記事に出てきた名前
| 名前 | 種類 | 何のためのもの |
|---|---|---|
| 税コード | 設定 | 税率と、税額を転記する勘定を決める2桁のコード。伝票の明細ごとに持つ |
| FTXP | トランザクション | 税コードを定義し、税率や税勘定を決める |
| 得意先税分類 | マスタの項目 | 得意先が課税か免税かなど、税の扱いを表す区分。BPの販売エリアデータに登録する |
| 品目税分類 | マスタの項目 | 品目が標準税率か軽減税率か非課税かなど、税の扱いを表す区分。品目マスタの販売データに登録する |
| 条件レコード | マスタ | 条件の組み合わせごとに、どの値(ここでは税コード)を使うかを登録したデータ |
| VK11 | トランザクション | SDの条件レコードを登録する |
| MWST | 条件タイプ | SDで消費税を計算するための条件の種類 |
| 購買情報レコード | マスタ | 仕入先と品目の組み合わせごとの購買条件。税コードも登録できる |
| MIRO | トランザクション | 仕入先の請求書を登録し、発注・入庫と照合する(請求書照合) |
| 課税売上割合 | 税務の用語 | 売上のうち課税売上が占める割合。仕入税額控除の計算に使う |