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用語解説

BPマスタの全体像

S/4HANAのビジネスパートナ(BP)を、データの階層(一般・会社コード・販売エリア・購買組織)で整理しました。各レベルに何を入力し、その前に何の設定が必要か、マスタの初期値が伝票の承認にどう効くかまで解説します。


S/4HANAでは、得意先マスタと仕入先マスタをビジネスパートナ(BP)から登録します。ECCで使っていたXD01(得意先登録)やXK01(仕入先登録)は、S/4HANAではマスタを作る手段ではなくなりました。BPが唯一の入口です。

ここでつまずきやすいのは、「BPに一本化された」と言われても、得意先マスタ・仕入先マスタが無くなったわけではない点です。BPを保存すると、裏で得意先マスタ・仕入先マスタが作られます。販売や購買の伝票は、これまでどおり得意先・仕入先を参照します。つまり、BPは入口で、得意先・仕入先は出口です。

まず、3つの「区分」を分けて覚える

BPには似た名前の区分が3つあり、これを混ぜて覚えると画面の意味が分からなくなります。最初にここを分けておくと、あとが楽です。

BPの3つの区分
区分何を決めるか
BPカテゴリ相手が何者か。登録時に選び、あとから変えられない組織(法人)、個人、グループ
BPロールそのBPをどの業務で使うか。1つのBPに複数付けられ、あとから追加できる一般、FI得意先、得意先(販売)、FI仕入先、仕入先(購買)
BPグルーピング番号の付け方(どの番号範囲を使うか)。登録時に選ぶ国内取引先、海外取引先、従業員 など、プロジェクトごとに定義する

とくに紛らわしいのが、BPグルーピングと、得意先・仕入先側の勘定グループです。役割が似ていて、どちらも番号範囲を決めます。BPグルーピングはBP側の区分、勘定グループは得意先・仕入先側の区分で、両者を対応づける設定が別にあります。

BPロールで、見えるデータが変わる

BPの画面を開くと、上のほうにロールを選ぶ欄があります。ここを切り替えると、表示される項目が変わります。「さっき入力した項目が見つからない」というときは、たいてい別のロールを開いています。

標準で用意されている主なBPロール
ロール内容持つデータ
一般(BP General)すべてのBPの土台。名称、住所、連絡先など一般データ
FLCU00FI得意先。債権の管理に使う会社コードのデータ(統制勘定、支払条件など)
FLCU01得意先。販売に使う販売エリアのデータ(出荷条件、価格グループなど)
FLVN00FI仕入先。債務の管理に使う会社コードのデータ(統制勘定、支払方法など)
FLVN01仕入先。購買に使う購買組織のデータ(購買通貨、発注条件など)

この表が示しているのは、BPのデータが階層に分かれているということです。名称や住所はどの業務からも同じものを見ますが、統制勘定は会社コードごと、出荷条件は販売エリアごとに変わります。BPを理解するうえで、いちばん大事なのがこの階層です。

データの階層
BP(名称・住所・連絡先)
  ├ 得意先として
  │   ├ 会社コードのデータ(FLCU00)… 会社コードごとに1件
  │   └ 販売エリアのデータ(FLCU01)… 販売エリアごとに1件
  └ 仕入先として
      ├ 会社コードのデータ(FLVN00)… 会社コードごとに1件
      └ 購買組織のデータ(FLVN01)… 購買組織ごとに1件

そして、それぞれの階層には「先に済んでいないと入力できない設定」があります。BPの登録でつまずくときは、BPの操作ではなく、この前提の設定が抜けていることがほとんどです。以下、階層ごとに、入力する内容・前提となる設定・気を付けることを並べます。

一般データ:BPそのものを作るための前提

項目内容
入力するもの名称、住所、連絡先、言語、税番号など。すべてのロールで共通
前提となる設定BPグルーピングと、それに割り当てる番号範囲。BPロールの定義(標準を使うのが基本)。得意先・仕入先を作るなら、グルーピングと勘定グループの割当(CVI)
気を付けることBPカテゴリ(組織・個人)は登録後に変更できない。番号を得意先と揃えるかどうかも、番号範囲の設計時に決めておく(あとから変えるのは大仕事)

会社コードレベル:会計で使うための前提

項目内容
入力するもの統制勘定、支払条件、支払方法、支払禁止、消込の設定、督促の設定など
前提となる設定会社コードが定義されていること。統制勘定に使うG/L勘定が、その会社コードに存在し、勘定マスタで補助元帳(得意先・仕入先)を指定してあること。支払条件が設定されていること(OBB8)。仕入先で支払プログラムを使うなら、支払方法も設定されていること
気を付けること統制勘定はあとから変えると残高の移し替えが必要になるため、設計段階で確定させる。支払条件はマスタと伝票の両方に入り、伝票側が優先されることを理解しておく

販売エリアレベル:SDで使うための前提

項目内容
入力するもの出荷条件、納入プラント、価格のグループ、請求の条件(請求日程)、税分類、パートナ機能(出荷先・請求先・支払人)など
前提となる設定販売組織・流通チャネル・製品部門が定義され、販売エリアとして組み合わせが有効になっていること。得意先勘定グループにパートナ機能が割り当てられていること。税分類を使うなら、税の条件と得意先側の税区分が設定されていること
気を付けること販売エリアはデータの単位。複数の販売エリアで取引するなら、その数だけ入力が必要になる。パートナ機能は、自社に売るのか出荷するのかで相手が変わるので、受注が通らないときはまずここを見る

購買組織レベル:MMで使うための前提

項目内容
入力するもの発注通貨、支払条件、インコタームズ、価格決定に使うグループ、発注の自動化に関する指定など
前提となる設定購買組織が定義され、会社コード・プラントに割り当てられていること。使う通貨が定義され、為替レートが登録されていること。価格決定のスキーマに仕入先側のグループを使うなら、その設定
気を付けること会社コードレベルと購買組織レベルの両方に支払条件があり、購買発注では購買組織側が使われる。会計側だけ直しても発注に反映されないのは、この二重構造が理由

登録の順序

実際にBPを登録するときの流れは、次のようになります。ロールを増やしながら、階層を下りていくイメージです。

  1. BPカテゴリ(組織か個人か)とBPグルーピングを選ぶ。番号はグルーピングに割り当てられた番号範囲から決まる
  2. 一般のロールで、名称・住所・連絡先などを入力する
  3. 得意先として使うなら、FI得意先のロールを追加し、会社コードを指定して統制勘定や支払条件を入力する
  4. 販売で使うなら、さらに得意先(販売)のロールで販売エリアのデータを入力する
  5. 仕入先として使うなら、同様にFI仕入先・仕入先(購買)のロールを追加する
ECCとの対応
ECCでの操作S/4HANAでは
XD01/XD02(得意先の登録・変更)BPで、得意先のロールを使う
XK01/XK02(仕入先の登録・変更)BPで、仕入先のロールを使う
FD01(会計向けの得意先登録)BPで、FI得意先のロールだけを付ける
得意先と仕入先の相互参照1つのBPに両方のロールを付ける

マスタの初期値は、承認フローにも効いてくる

ここまでは「BPに何を入れるか」の話でした。実務では、入れた値がその後どう使われるかも押さえておく必要があります。BPに登録した支払条件や支払方法、インコタームズなどは、伝票を入力するときに初期値として自動で提案されます。担当者が毎回入力しなくて済む、というだけの機能に見えますが、これは統制の仕組みとしても使われます。

プロジェクトによっては、「マスタから提案された値のままなら承認フローを省略し、変更された項目があれば、その項目に応じてチェックを入れる」という運用を組むことがあります。マスタどおりの取引はすでに合意された条件なので追加の承認は要らない、逆に、その場で条件が変わったのなら誰かが確認する、という考え方です。

私が関わった環境では、この判定は承認ワークフローの中に組み込まれていました。伝票の項目がマスタの初期値から変わっているかをワークフローが検知し、変わっていた項目に応じて承認のステップを足す、という作りです。どう実現するかはプロジェクトによりますが、「承認の要否が、伝票の項目とマスタの差分で決まることがある」という点は共通しています。

「変更されたら確認する」に入れることが多い項目
項目なぜ確認するのか
支払条件支払の期日が変わる。資金繰りに直結し、値引きの条件が絡むこともある
支払方法・銀行口座入金先・出金先が変わる。振込先の書き換えは不正の典型的な手口でもある
価格や条件売上・原価が変わる。値引きの権限と結びつけて設計することが多い
出荷先・請求先物と請求書の宛先が変わる。取引の相手が実質的に変わることがある

なお、どの項目を対象にするか、誰が承認するかは、プロジェクトごとに決める話です。新人のうちは「BPの値は伝票に初期値として流れ、その差分が統制に使われることがある」とだけ覚えておけば、設計の議論についていけます。マスタを直す作業が、単なるデータ修正ではなく、承認の前提を変える作業になりうる、という点も頭の隅に置いておくと安全です。

つまずいたときに見るところ

症状見るところ
保存したのに得意先マスタができないBPグルーピングと得意先勘定グループの割当。番号範囲の整合
入力したはずの項目が見つからない開いているロール。会社コード・販売エリアを指定しているか
必須項目が想定と違う得意先・仕入先側の勘定グループ。項目の必須・任意は勘定グループで決まる
取引先ごとに違う住所を使いたいBPの住所は複数持てる。用途(出荷先など)に応じた使い分けを設計時に決めておく

「グルーピングは得意先勘定グループに割り当てられていません」で止まったときの確認順序は、こちらにまとめています。BP登録のグルーピングエラー

この記事に出てきた名前

名前種類何のためのもの
BPトランザクション/マスタビジネスパートナ。得意先・仕入先を登録する唯一の入口
BPカテゴリBPの区分組織・個人・グループの別。登録後は変更できない
BPロールBPの区分そのBPをどの業務で使うか。複数付けられる
BPグルーピングBPの区分どの番号範囲を使うかを決める
勘定グループ得意先・仕入先の区分番号範囲と、画面項目の必須・任意を決める
CVI仕組みの名前BPと得意先・仕入先マスタを同期させる
FLCU00/FLCU01標準のBPロールFI得意先(会社コード)/得意先(販売エリア)
FLVN00/FLVN01標準のBPロールFI仕入先(会社コード)/仕入先(購買組織)

わからない用語は SAP用語辞典 で調べられます。