買掛金管理(Accounts Payable/FI-AP)は、仕入先に対する債務を管理する補助元帳です。請求書の計上から支払の実行、そして消込までを扱います。
仕入先マスタの構造
仕入先マスタは3つの階層に分かれています。この分割は、部門ごとに管理する情報が違うことに対応しています。
| 階層 | 管理する情報 | 管理部門 |
|---|---|---|
| 総括データ | 名称、住所、電話番号、税番号 | 全社共通 |
| 会社コードデータ | 照合勘定、支払条件、支払方法、支払ブロック | 経理 |
| 購買組織データ | 発注通貨、購買担当者、インコタームズ | 購買 |
請求書を計上する2つの経路
仕入先請求書の計上には、FIから直接入力する経路と、MMの購買プロセスを経由する経路の2つがあります。どちらを使うかは、発注書があるかどうかで決まります。
| 経路 | Tコード | 伝票タイプ | 使う場面 |
|---|---|---|---|
| FI直接転記 | FB60 | KR | 発注書を伴わない費用(家賃、光熱費、専門家報酬など) |
| MM請求書照合 | MIRO | RE | 購買発注にもとづく物品・サービスの購入 |
3点照合(Three-Way Match)
MMを経由する場合、SAPは3つの書類を突き合わせてから請求書を受け入れます。これが3点照合です。
- 購買発注(PO):何を、いくらで、何個買うと約束したか
- 入庫(GR):実際に何個届いたか
- 請求書(IR):仕入先が何個分、いくら請求してきたか
数量や金額が許容範囲を超えてずれている場合、SAPは請求書に照合ブロックをかけ、支払対象から外します。ブロックされた請求書は、担当者が内容を確認してMRBRで解除するまで支払われません。誤請求や二重請求を防ぐ、内部統制上きわめて重要な仕組みです。
入庫と請求書のタイミングのずれは、前のセクションで触れたGR/IR勘定が吸収します。入庫時に貸方GR/IR、請求書照合時に借方GR/IRとなり、両方が揃えばGR/IRの残高は消えます。
自動支払プログラム(F110)
支払は1件ずつ手作業で行うこともできますが(F-53)、実務では自動支払プログラムF110でまとめて処理するのが通常です。F110は決まった順序で実行します。
| 順序 | ステップ | 内容 |
|---|---|---|
| 1 | パラメータ設定 | 会社コード、支払方法、支払日、次回実行日、対象の仕入先範囲を指定 |
| 2 | 支払提案の実行 | 条件に合う未決済明細を抽出し、支払リストを作成 |
| 3 | 提案の確認・編集 | 個別に支払を除外したり、支払ブロックをかけたりできる |
| 4 | 支払実行 | 会計伝票を転記し、対象明細を消込 |
| 5 | 支払媒体の出力 | 振込データ(全銀ファイルなど)や送金通知書を生成 |
前渡金と特殊仕訳
仕入先に前払金を支払う場合、その金額は通常の買掛金とは区別して管理する必要があります。前渡金は資産であり、買掛金という負債と相殺して表示すべきではないためです。
SAPはこれを特殊仕訳(Special G/L Transaction)という仕組みで実現します。特殊仕訳表示(Special G/L Indicator)を付けて転記すると、通常の照合勘定ではなく、前渡金専用の代替照合勘定に金額が集計されます。仕入先ごとの明細としては同じ場所で見えるのに、総勘定元帳では別の科目になる——これが特殊仕訳の効果です。
同様の仕組みは、支払手形や保証金の管理にも使われます。仕入先の明細照会はFBL1Nで行い、特殊仕訳の明細も含めて確認できます。