SAPにおけるすべての会計処理は、最終的に「会計伝票」という形で記録されます。他モジュールからの自動転記であっても、経理担当者の手入力であっても、できあがるものは同じ構造の伝票です。ここではその構造と、実際の起票操作を扱います。
会計伝票の構造
会計伝票は、1つのヘッダと複数の明細行で構成されます。ヘッダには伝票全体に共通する情報が、明細行には勘定科目ごとの金額が入ります。
| 構成要素 | 主な項目 | 格納テーブル(ECC) |
|---|---|---|
| 伝票ヘッダ | 伝票番号、会社コード、会計年度、伝票タイプ、伝票日付、転記日付、通貨、換算レート、ヘッダテキスト | BKPF |
| 伝票明細 | 転記キー、勘定科目、金額、借貸区分、原価センタ、利益センタ、税コード、支払条件、明細テキスト | BSEG |
S/4HANAでは、明細の実体がACDOCA(ユニバーサルジャーナル)に移りました。BSEGは互換性のために残っていますが、レポートや分析の基点はACDOCAです。既存のカスタムプログラムがBSEGを直接参照している場合、S/4移行時に見直しが必要になることがあります。
入力トランザクションの使い分け
仕訳を入力するトランザクションは複数あり、扱う勘定タイプによって使い分けます。どれを使っても、できあがる伝票の構造は同じです。
| Tコード | 用途 | 特徴 |
|---|---|---|
| FB50 | 総勘定元帳の伝票入力 | 借方/貸方を選ぶだけ。転記キーは不要 |
| FB60 | 仕入先請求書の入力 | 仕入先を指定。買掛金側は自動生成 |
| FB65 | 仕入先クレジットメモ | FB60の貸方版 |
| FB70 | 得意先請求書の入力 | 得意先を指定。売掛金側は自動生成 |
| FB75 | 得意先クレジットメモ | FB70の貸方版 |
| F-02 | 汎用の伝票入力(従来型) | 転記キーを直接入力。勘定タイプを混在できる |
| FV50 | 総勘定元帳伝票の保留 | 承認前の一時保存 |
FB50系の画面は操作が簡単ですが、扱える勘定タイプが限定されます。仕入先と得意先と総勘定元帳を1つの伝票に混在させたい場合など、複雑なケースではF-02を使います。
伝票日付と転記日付の違い
実務で最も間違えやすいのが、この2つの日付の区別です。
| 項目 | 意味 | 影響する範囲 |
|---|---|---|
| 伝票日付(Document Date) | 取引の発生日。請求書に印字された日付など | 支払基準日の算出、証憑との照合 |
| 転記日付(Posting Date) | 会計帳簿に載せる日付 | どの会計期間の数字になるかを決定 |
| 入力日付(Entry Date) | SAPに登録した日付。システムが自動設定 | 変更不可。監査証跡 |
転記期間のコントロール
転記日付を自由に指定できてしまうと、締めたはずの過去期間に伝票が入り込みます。これを防ぐのが転記期間の開閉制御(OB52)です。会計期間ごとに、どの勘定タイプへの転記を、いつからいつまで、どの権限グループに許可するかを設定します。
月次決算では通常、当月をクローズし翌月をオープンにします。決算作業中は、経理部門だけが前月に転記できるよう権限グループで制御するのが一般的な運用です。
保留伝票と保持伝票
入力途中の伝票を一時保存する方法が2種類あります。両者は似ていますが、性質がまったく異なります。
- 保留伝票(Parked Document):伝票番号が採番され、他のユーザーからも参照・編集できます。金額の集計対象にはなりませんが、承認ワークフローを回す用途に向いています。FBV0で照会・転記します。
- 保持伝票(Held Document):入力者本人のためのメモに近い機能です。伝票番号は採番されず、他のユーザーからは見えません。
「入力担当者と承認担当者を分けたい」という要件には、保留伝票を使います。保持伝票は個人的な作業の中断にとどめるべき機能です。
転記後の照会と取消
転記した伝票を確認するにはFB03(伝票照会)を使います。会社コード・会計年度・伝票番号の3つを指定します。勘定科目ごとの明細を一覧したい場合は、総勘定元帳ならFAGLL03、仕入先ならFBL1N、得意先ならFBL5Nを使います。
誤った伝票はFB08で取り消します。取消を行うと、元伝票と逆の仕訳が新しい伝票として起票され、両者が相互に紐づけられます。取消理由コードによって、取消伝票の転記日付を元伝票と同じにするか、当日にするかを制御できます。