得意先や仕入先の未決済明細は、請求と入金(支払)を対応づけて消し込みます。件数が多い会社では、これを1件ずつ手で行うのではなく、自動消込(F.13、自動で消込を行うトランザクション)で夜間などにまとめて処理します。
この記事では、導入プロジェクトでの経験をもとに、自動消込でつまずきやすい点をまとめます。自動消込でいちばん説明が必要になるのは、「金額は同じなのに、なぜ消し込まれないのか」という点です。
自動消込は「グループの残高がゼロか」で判定する
自動消込は、請求と入金を1対1で見比べて「金額が同じだから消す」という動きをしません。まず、未決済明細を決まった条件でグループに分け、グループの中の明細を合計した残高がゼロになったときに、そのグループをまとめて消し込みます。
グループ分けに使う条件は2種類あります。1つは、会社コード・勘定・通貨など、SAPが必ず使う条件です。もう1つは、OB74(自動消込の条件を決める設定画面)で勘定の種類や範囲ごとに追加する条件で、最大5つまで指定できます。追加条件には、ソートキー(ZUONR)や事業領域(GSBER)など、会計伝票の明細にある項目を使います。
| 種類 | 主な項目 | 決める場所 |
|---|---|---|
| SAPが必ず使う条件 | 会社コード、勘定タイプ(得意先・仕入先・総勘定元帳)、勘定、統制勘定、通貨、特殊仕訳コード | 変更できない |
| 追加する条件(最大5つ) | ソートキー(ZUONR)、事業領域(GSBER)、参照(XBLNR)など | OB74で、勘定タイプと勘定の範囲ごとに設定 |
下の図は、得意先1社の未決済明細が、ソートキーの値ごとにグループに分かれる様子です。請求と入金が同じ5万円でも、ソートキーの値が違えば別のグループになり、どちらのグループも残高がゼロにならないので消し込まれません。
得意先Aの未決済明細
| 種類 | ソートキー | 金額(円) |
|---|---|---|
| 請求 | INV-1001 | 100,000 |
| 入金 | INV-1001 | −100,000 |
| 請求 | INV-1002 | 50,000 |
| 入金 | 1002 | −50,000 |
グループINV-1001
- 請求100,000
- 入金−100,000
グループINV-1002
- 請求50,000
グループ1002
- 入金−50,000
入金側のソートキーが「1002」、請求側が「INV‑1002」と入力の仕方が違っていたため、同じ5万円でも別のグループになっています。
消し込まれない3つのパターン
自動消込で明細が残ったときの原因は、おおむね次の3つに分けられます。どれも「グループの残高がゼロにならない」という点では同じで、残高がゼロにならない理由が違います。
| パターン | 何が起きているか | 例 |
|---|---|---|
| ① 条件の値が違う | 請求と入金が別のグループに分かれ、どちらのグループも残高がゼロにならない | 請求はソートキーに「INV‑1002」、入金は「1002」と入力した。片方が空欄だった |
| ② 関係のない明細が混ざっている | 同じグループに別の明細が1件入り、合計がゼロにならない。そのグループの明細はすべて残る | 同じ請求書番号で、訂正前の請求と訂正後の請求が両方残っていた |
| ③ 差額がある | 条件はそろっているが、振込手数料や端数で合計がゼロにならない | 10万円の請求に対し、手数料を引いた99,560円が入金された |
②は見落としやすいパターンです。自動消込はグループの合計で判定するので、グループの中に対応する請求と入金がそろっていても、余計な明細が1件あるだけで、そのグループ全体が消し込まれずに残ります。
差額は「許容差異の中か外か」で扱いが変わる
③の差額は、許容差異(差額をどこまで自動で処理してよいかの上限)の設定によって扱いが変わります。F.13には許容差異を考慮して消し込むオプション(英語の画面では Include Tolerances)があり、これを使うと、差額が許容差異の範囲内のグループも消し込まれ、差額は損益などへ自動で転記されます。
差額が許容差異を超えると、自動消込ではそのグループを消し込まずに残します。自動消込は、一部入金や残額処理のような「差額を未決済として残す」処理は行いません。残った明細は、担当者が手動消込(F-28やF-32)で、一部入金にするか残額処理にするかを選びます。
| 差額 | 自動消込(F.13) | そのあとの処理 |
|---|---|---|
| なし | 消し込む | なし |
| 許容差異の範囲内 | 許容差異を考慮するオプションを使えば消し込み、差額を自動で転記する | なし |
| 許容差異を超える | 消し込まずに残す | 手動消込で、一部入金か残額処理を選ぶ |
| 項目 | 一部入金 | 残額処理 |
|---|---|---|
| 元の請求明細 | 未決済のまま残る | 消し込まれる |
| 入金の明細 | 請求明細に紐づいた未決済明細として残る | 消込に使われる |
| 差額 | 請求明細と入金明細の両方が残ることで表される | 差額で新しい未決済明細が作られる |
消し込まれない原因を確かめる手順
「金額は同じなのに消えない」と言われたら、金額より先に、条件に使っている項目を見ます。私は次の順で確かめています。
- OB74で、その勘定に設定されている追加条件を確認する。どの項目でグループに分かれるのかが分からないと、明細を見ても比べる項目が決まらない
- 得意先の明細照会(FBL5N)や仕入先の明細照会(FBL1N)で、未決済明細を表示する。表示レイアウトに、ソートキーなど条件に使っている項目を列として追加する
- 請求と入金の明細を並べて、条件の項目が同じ値かを比べる。空欄や、表記の違い(ハイフンの有無、先頭のゼロなど)がないかも見る
- 条件がそろっているのに残る場合は、同じ値の明細を全部合計して、ゼロになるかを見る。ならなければ、②の関係のない明細か、③の差額を疑う
- F.13をテスト実行し、消し込めなかった明細の一覧を出して、グループの分かれ方を確かめる
導入プロジェクトで決めておくこと
導入プロジェクトで最も大事なのは、追加条件にどの項目を使うかです。条件を増やすほど、関係のない明細が同じグループに混ざることは減ります。その代わり、条件の項目が1つでもずれると消し込まれなくなるので、実際の業務で必ず同じ値が入る項目を選ぶ必要があります。
- 条件にする項目は、請求側と入金側の両方で、同じ値が安定して入るものを選ぶ。たとえば請求書番号を条件にするなら、入金の登録時にも請求書番号を入れる運用ができるかを業務側と確認する
- 得意先・仕入先・勘定のマスタにある「ソートキー」の設定を使うと、伝票番号や参照など、明細のソートキー欄に入れる値を自動で決められる。手入力に頼らないほうが値はそろいやすい
- 差額の扱いを決める。許容差異の範囲内は自動で処理するのか、範囲を超えたときは一部入金と残額処理のどちらを基本にするのかを、業務の要件と合わせて整理する
- 自動消込をいつ、どの勘定に対して流すのか(夜間のジョブか、月末だけか)を決める
移行データでも、条件の項目がそろっているかを確かめる
稼働前の未決済明細を移行するときも、自動消込の条件に使う項目が正しく引き継がれているかを確認します。たとえばソートキーを条件にするなら、移行した請求の明細にも、稼働後の入金と突き合わせられる値が入っている必要があります。
これはSAPの不具合ではなく、自動消込が設定した条件で明細をグループに分ける仕様だからです。稼働後に入力される明細と同じ前提が、移行データにも必要になります。移行のテストでは、移行した明細と、稼働後を想定して登録した入金とを、F.13のテスト実行で消し込めるかまで確かめておくと安心です。前に書いたとおり、移行した明細のソートキーが空欄のままだと、空欄どうしで思わぬ消込が起きることもあります。
ユーザーへの説明のしかた
「金額が同じなのに消し込まれない」という問い合わせには、仕組みの説明から入るより、実際の項目を見せて説明するほうが伝わります。たとえば次のように説明します。
このとき、FBL5NやFBL1Nの画面で、ソートキーの列を並べて見せると、どこが違うのかがひと目で分かります。
新人のころの自分に伝えたいこと
新人のころの自分に一言だけ言うなら、「金額だけではなく、消込の条件に使われている項目を見る」です。消し込まれない明細があったら、まず未決済明細を並べて、条件にしている項目がそろっているかを比べます。差額がある場合は、許容差異で処理できるのか、一部入金なのか、残額処理なのかを分けて考えると、原因を整理しやすくなります。
この記事に出てきた名前
| 名前 | 種類 | 何のためのもの |
|---|---|---|
| F.13 | トランザクション | 得意先・仕入先・総勘定元帳の未決済明細を、条件にしたがって自動で消し込む。中で動くプログラムはSAPF124 |
| OB74 | 設定画面 | 自動消込で明細をグループに分ける追加条件を、勘定タイプと勘定の範囲ごとに最大5つ決める |
| ソートキー(ZUONR) | 明細の項目 | 会計伝票の明細に持てる文字項目。請求書番号など、突き合わせ用の値を入れる。英語では Assignment |
| 事業領域(GSBER) | 明細の項目 | 事業の単位で損益や残高を分ける組織の項目。自動消込の条件にも使える |
| F-28 | トランザクション | 入金を登録し、同時に請求の明細を消し込む |
| F-32 | トランザクション | 得意先の明細どうしを手動で消し込む |
| FBL5N / FBL1N | トランザクション | 得意先(FBL5N)・仕入先(FBL1N)の明細を一覧で照会する。未決済と消込済みを切り替えられる |
| 許容差異 | 設定 | 差額をどこまで自動で処理してよいかの上限。金額と割合で決める |